肝機能障害
「特に体調は変わりないのに、健康診断で、肝機能の数値が高いと言われた。」
こんなことはありませんか?
肝機能障害とは
何らかの原因で肝細胞が炎症を起こしたり、脂肪が付着したりすることにより、肝臓の機能障害が起きている状態です。
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、初期の肝機能障害では自覚症状が現れにくい特徴があります。しかし、放置すると肝硬変や肝臓がんといった深刻な病気に進行する可能性があるため、早期発見・治療が重要です。
肝臓の働き
肝臓は、生命維持に不可欠な様々な役割を担っています。
- エネルギーの貯蔵:食事から吸収された糖質は、ブドウ糖に変換されて肝臓に運ばれ、肝臓は、このブドウ糖をグリコーゲンという形で貯蔵し、必要な時にエネルギー源として利用します。
- タンパク質の合成:食事からの栄養分は胃腸で消化吸収され、血液を通じて肝臓に運ばれます。たんぱく質はアミノ酸となって肝臓に入り、肝臓がそのアミノ酸を使ってアルブミンや血液凝固たんぱくなど、体にとって必要なたんぱく質を作り出すのです。
- 老廃物や有害物質の解毒:食物・薬剤やアルコール・アンモニアなどを解毒し、体外に排出できる形に変えます。
- 胆汁の生成:主に脂肪やたんぱく質の吸収を助ける消化液である胆汁を生成します。
肝機能障害の症状
初期症状
肝機能障害は、進行した状態では症状が現れますが、初期は自覚症状が少ないことが特徴です。健康診断で肝臓の数値の異常を指摘された場合、症状がないからといって放置しないことが大切です。
急性肝炎では、発熱、食欲不振、倦怠感など風邪に似た症状がみられることもありますが、症状だけで判断することは難しいことが多く、診察・検査が必要です。
進行してからの症状・肝硬変について
肝臓で炎症が慢性的に続き、線維化が進行することし、肝臓が硬くなってしまうことを肝硬変と言います。
肝硬変は進行すると、肝臓本来の細胞の構造が破壊され、肝臓の機能が果たせない状態になっていきます。
肝硬変は程度により、「代償性肝硬変」と「非代償性肝硬変」に分けられます。
「代償性肝硬変」とは肝臓の機能がなんとか保たれており、症状は現れないことが多いです。食欲不振や倦怠感だけという人もいます。
「非代償性肝硬変」はその名の通り肝機能を代償することが出来ない程度にまで悪化し、様々な症状が出てくる状態をいいます。
- 黄疸:ビリルビン(通常は肝臓で代謝される黄色い色素)が体内で増加することで皮膚や白目が黄色くなります。
- 肝性脳症:血液中に有毒なアンモニアが増え、意識障害を中心とした様々な症状が現れます。重症の場合には昏睡状態に陥ります。
- 腹水・浮腫:血液中のタンパク質(アルブミン)が減少することで、お腹や手足に水が溜まります。
- 食道胃静脈瘤:肝臓が硬くなることによって、血液が本来とは違う血管に流入し、食道の静脈などに血液が溜まるこぶの様なものができます。静脈瘤が破裂すると大出血が生じることがあります。
肝がん
肝がんは、肝臓にできるがんで、大きく分けて以下の2種類があります。
- 原発性肝がん: 肝臓の細胞ががん化したもので、肝細胞がんが最も多いです。
- 転移性肝がん: 他臓器のがんが肝臓に転移してきたもの。
原発性肝がんは、慢性肝疾患・肝硬変から発生することが多く、これらの病気の早期発見・治療と進展抑制が肝がん予防に重要です。
肝機能障害の主な原因
- ウイルス性肝炎:A型、B型、C型、D型、E型、EBウイルス、サイトメガロウイルスなどによる肝炎。日本でのウイルス感染の多くはB型とC型です。B型は性行為などの密接な接触、傷口への粘液や血液の接触、輸血や注射器の使い回しなどが感染経路となるほか、感染した母胎からの母子感染などの経路によって感染します。またC型は性行為による感染はほとんどなく、日本では輸血や透析、注射器の使い回しなどで感染します。
- アルコール関連肝疾患:長期間にわたる過度の飲酒が原因です。過剰な飲酒の定義としては、アルコール量を純エタノール量に換算した量が用いられ、1日60g以上とされています。純エタノール換算60gは、日本酒では3合、ビールでは500ml×3缶に相当します。
- 代謝異常が関連した脂肪性肝疾患(MASLD):脂肪肝に肥満または2型糖尿病が合併しているか高血圧、内臓脂肪型肥満など2種類以上の代謝異常が合併している場合、診断されます。
- 薬物性肝炎:薬剤やサプリメントなどの服用が原因で肝臓に障害が出る病気です。
- 自己免疫性肝炎(AIH):自分の免疫システムが肝臓を攻撃してしまう病気です。
- 原発性胆汁性胆管炎(PBC):自分の免疫システムにより胆管が炎症を起こし、胆汁の流れが悪くなる病気です。
- 甲状腺疾患:甲状腺ホルモンの異常によって肝機能障害が生じます。
近年、増加傾向にあるのは、代謝異常が関連した脂肪性肝疾患(MASLD)です。
当院での肝機能障害の検査
- 血液検査:肝臓の異常を示すAST、ALP、γ-GTPなどの肝酵素、タンパク合成に関わる数値であるアルブミン、肝臓の線維化の状態を示す血小板数、その他肝臓の線維化マーカーなどをチェックします。
- 腹部超音波検査:肝臓の超音波検査では、脂肪肝の状態や繊維化の進行度合い、肝がんの有無などが確認できます。
- 胃カメラ:肝硬変が進行してきた場合は食道胃静脈瘤の合併がないか、胃カメラを行う必要があります。
当院での肝機能障害の治療
治療は原因によって異なります。アルコール関連肝疾患の場合は断酒、代謝異常が関連した脂肪性肝疾患(MASLD)の場合は食事療法や運動療法などによる体重管理や生活習慣の改善、また合併している代謝性疾患への治療が行われます。
ご相談ください
肝機能障害は自覚症状が現れにくいため、定期的な検査が重要です。健康診断で肝臓の数値を指摘されたことがある方は、お気軽に当院にご相談ください。